vlog_0508 神山アローン上映会@晴れ豆

2019年05月14日 17:05
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收起
まったく、慣れぬことをするんじゃあなかった。
疲れで3日ぐらい棒に振ってしまった。
日常的に酒を嗜まないワタクシの肝臓と痛風気のある腎臓は悲鳴をあげている。いたいけないヤツガレはアイコス吸う気なんかミジンコほども湧いてこなかった。ニコチンと酒と放言三昧とで喉はガラガラ、徳島ではまったく歩かぬ足は酷使により棒然自失。ああ疲れた。まったく疲れ果てた。
だがこのちょっとだけおセンチな旅は、皆々様にはどうでもいい些事なれども、他ならぬアタクシの人生にとっては、なんだか少々意味深々なものであった。

5/1から9日までのゴールデンタイム。私は家族を置いてきぼりにし久方ぶりに東京に滞在する。2日と8日に自作を代官山の「晴れ豆」にて上映するためだ。たまには都心で羽を伸ばそうとも思い、上映と上映との間に帰るんじゃなくて、そのまま残ることにした。
多種多様な人々と出会っては語らい、浴びるように酒を飲み、無数の煙に燻された。そのようにしようとは露ほども計画していなかったのであるが、いつしかこの旅は巡礼のようなものになる。過去の人生において関係を結んだ土地土地の目の前を通り過ぎたり、暫時とどまったりしながら、9年前に東京を出てからこれまでのコシカタをいやが応でも痛感し、振り返ることになる。
2日の上映後、咄嗟の思いつきと悪ノリに急き立てられてかつて住んでいた祐天寺のアパートまで歩いてみることにした。記憶はいくつも千切れている。方々で道を間違えては行きつ戻りつ、ためつすがめつ。
寝静まった住宅街の一角に明かりの消えたかつての自室をたしかに認めた。小さくて狭くて息苦しかったあの部屋で過ごした10年前の日々が一度に蘇ってくる。ワタシは何の運命のいたずらか、ここからスパーんと徳島神山へと弾き飛ばされたんだと思った。トム・ヴィンセントと初めて出会ったカフェの前も通り過ぎる。よく言っていたファミレスも通り越える。あれから9年が経った。平成も終わった。人も多く死んだ。何もかもが変わったようにも、そのままどうして同じようにも見える。
偶然と符号と意味と即興とに導かれ、人は生涯を送っていく。すべてのことには何某かの意味がある。意味は初めからあるのか、なにかとなにかの接合により生じるのか。人は大抵そのことを忘れてしまうが、時折思い出しては噛みしめたりもする。
横浜野毛に始まり代官山で奈々福師匠の浪曲コラボでの自作の上映と晴れ豆の撮影、伝説のシンガーと痛飲した仙川の明け方と尊敬する監督とのザギンの夜。知らず緊張していたのか治らぬ口内炎と呷ったパンシロン。御茶ノ水は本郷で修復士の清川先生のお話と不意の涙とに心を打たれ、先生の通うビルに通底していた岩波映画の記憶に知らず触れ、2丁目の瀟洒で古風なビルにあるカフェに参って上映の相談をした後、立派に男をあげた後輩に会いに群馬太田へ。痛飲。翌日父の実家へ25年ぶりに長野佐久へ。数々の不義理をあちらの近親へ向けて詫びる。少飲。翌日千葉四街道の母方の墓参りに行き、水を入れる桶すらなくなっていることに愕然とし、また東京に戻り或る番頭さんと吾が主演女優と呑んだ渋谷の酒。紀尾井町コダマ社訪問。三茶で嫌煙家のPと食らったラム肉。そして最終日の阿波大人との再開と自作の上映。東京を出てからずーっと会ってなかった人々に逢えた。幾人かのともがらは太って誰かわからなかった(笑)。嗚呼、呑んだ呑んだ。
あちこちのおあ兄さんお姉さんのご厄介になり取り出す財布も程々に、旅人に出させる金はねえと見せる粋の骨頂。色々言葉にならないコトバが生まれもし、普段聞けない説教ご意見アドバイスの数々を伺う。
ここまで色々書いといて、誰がそんなことを一々開陳してくれと頼んだんだと突っ込まれそうだが、それでもこれだけは、特段にどうしても書いておきたいことが一つある。8日の『神山アローン』の上映についてである。別に誰かに読ませるために書くんじゃない。人の日記を覗き見るのはあなたたちの方だと逃げ腰をキメる。
その日その時ワタクシは、言葉にならない無数の感情がうごめいてしまって、ただただしとしと泣くしかなかった。しとしとなんてえもんじゃねえっす。嗚咽をあげていたんじゃないか。横を見たら越路よう子さんもメイクを崩壊させて泣いていた。よく見ると女装した越路姉妹全員崩壊していた。
藪から棒に書いてしまうが、溝口健二の『残菊物語』という映画がある。歌舞伎の名門に生まれたが木偶の坊である、花柳章太郎演じる主人公2代目尾上菊之助が、身分違いの恋にうつつを抜かし、一門より波紋を言い渡される。流浪の田舎歌舞伎に一座に拾われやさぐれながら次第に芸に本腰が入りだし、評判を聞きつけた父が帰還を命じ、見事晴れの舞台を踏むという内容である。随分と前に本作を見たが、その時「これは僕の話だ」と思った。
2010年の梅雨時期のころまで私は半年間代官山の会社で働いていた。もはや煩悶愚痴の類は記すまい。サラリーマンというものに全く身を投じ得ない私は、「あーいやだなあ」と人生を呪いつつ毎朝駅前の移動式コーヒー屋で大量のカフェインを摂取していたのだが、そこでボサボサ頭にガサガサ肌でジャージ姿で虚空を眺めていた御人と二言三言話す中になったのであるが、その方が伝説的ピアニストの南博さんであった。その南さんに彼のライブに誘われてはじめて行った場所こそが、この「晴れ豆」こと、「晴れたら空に豆まいて」という店だったのである。
前述のように私はそこからすぐに運命の濁流に飲み込まれて、徳島山中へと弾き飛ばされた。そこで2016年まで『神山アローン』を作りながら、『産土』のシリーズと幾多の広告仕事とをしながら作った。そして2018年に『あわうた』を作る。その際たまたま手に取った『阿波の遊行』というCDの楽曲に撃たれ、挿入歌にお願いしますと頼みにいった席におられたのが偶然にもその「晴れ豆」のオーナー、越路よう子さんであったのだ。2日の上映に南博さんも来てくれた。世界とはなんて遠いようで近いのだろう。『残菊物語』のように、代官山から弾き飛ばされた私は、このシャレオツな場所にある不思議な文化の集約装置のような店に舞い戻ってきた。その辺にいる兄ちゃんだった私は、「監督!」と呼称されるようになった。
『神山アローン』の上映が始まる。そしてこの映画のエンディングテーマは、もう15年ほど前に墨田区のボロ家で一緒に住んでいたNoboが歌う。劇中歌を奥方の野本晴美さんがピアノを弾く。彼女は僕ら貧乏芸術家の憧れのまとであった。エンドロールが流れ出す。スクリーン裏にNoboに待機してもらいライブで演奏し、最後の方でスクリーンを上げ、Noboが出てくるという仕掛け。スクリーンが上がる。Noboが出てくる。客席は静かな衝撃に包まれる。阿波踊りを歌う港幸子のモノクロの映像が、舞台奥の暖簾やドラムセットやアンプや幾多の音響機材に映し出される。それはまるであの世のようであった。その横で歌う、腹が出てないザコシショウみたいになったNoboを見つめる。直後野本晴美がピアノを弾く。客席はさらに凍りつく。
彼と彼女は演奏をずいぶんと中断していた。人には言えぬ労苦があった。だがそんなことの詳細を克明に書いたところでなんになる。言葉にならないことをコトバにするのが文学であり、歌とメロディにするのが音楽だろう。その姿と空気を切り取るのが映像だろう。客席の大半はこの労苦を知らぬ。映画が終わる。そして二人の音楽が場を席巻する。Noboは労苦を笑いに変え、野本晴美は哀しみを驚きと凄みとに変えた。それはこの空間に漂い僕らを包み込んだ。最後は越路姉妹の怒涛と爆笑のライブでこの得難い愛に満たされた夜は終わった。僕は誰彼かまわずハグしまくり、泣いた。前向きに泣いた。そして笑った。久しぶりに心の底から笑った。
映像作家も、ミュージシャンも、そこに集う人々も、悲しみを抱えた問題児(越路さんの言葉を借りれば手遅れ物件)ばかりだ。僕らは売れようが売れまいが何かを吐き出すことを止めることはできやしない。「悲し」は、「愛し」とも「哀し」とも書く。傷があるからこそ、そこから出たウルシのようなものが、見る人、聴く人の傷を癒し、なにかをうるおすようなものを作りだすことができるのかもしれない。人を遠ざけるのではなく、人に寄り添う。それが歌になりコトノハになり映像になる。(時代は本物の河原乞食を求めている。そうだ。これからは再度、河原乞食の時代なのだ。)
この上映は、僕自身の残菊物語のような東京への帰還であるだけじゃなく、Noboと晴美の復活と再開。そして徳島に縁が生まれ、それを東京に持ち帰った越路さん自身の物語でもある。幾多の物語の線がシンクロし、一どころに結集した。だがそれはまた違う物語を求めてそれぞれの異世界へと弾かれていく。再開する日を目指して。
僕とNoboが喧嘩をしたり色々と煩悶したりした15年前の日々は、この一夜のために存在していたのかもしれない。僕はこの日にさっちゃんの映像を上映するために、神山に行ってさっちゃんに出会ったのかもしれない。この映画は僕ではなく、僕たちのものだ。そんなものがあったっていいじゃないか。
代官山で後輩に促されて買った服を着て家に帰ると嫁に「変」と言われた(苦笑)
人生は続く。
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